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 今回は初めてフィリピンの民族衣装展を企画しました。アバカとよばれる植物の繊維で作られた絣模様のパンツ「山袴」を手に入れたのは20年近く前のこと、しなやかな絹とは対極にある直線的で肌に添わない衣装でしたが絹を染めたような色と光沢がありただならぬものを感じました。この地域のものは蒐集の機会がかぎられていましたが、ようやく30点のフィリピンの染織品をコレクションすることができました。各部族の特徴のある伝統衣装は人類の衣装文化を探求する糸口が隠されているようで刺激的でした。お楽しみいただければ幸いです。2020年9月5日よりネットギャラリーにて公開いたします

 フィリピンの民族衣装展 

GALLERY 

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 ルソン島北部の山岳地帯各部族はそれぞれ極めて特色のある織物を作ってきた。そのそれぞれの歴史を解明することは困難であるが、おそらく古くは、彼らの身なりは極めて簡素であった。本来男は褌、女は腰衣だけである。地方によっては女もタパ(樹皮)の褌を身にまとうだけで、北部のアパヤオ族ではこの習慣がまだみられる。しかしそれらは単なる無装飾の下着に止まらず、特に祭儀に際しては華麗極まるものが用いられる。イフガオ、ボントック、カリンガなどの男子の褌は極めて長く幅広く、前後に垂らす部分は華やかな模様を浮織で織る。特にガッタン族の褌は、やや小型であるが両端にビードの装飾を惜しみなく用いている。おそらく褌としては世界でこれを超える華やかなものはあるまい。(中略)

 ティンギャン族は素朴な地機で多様な布を織り、祭儀の時とくに葬礼に際して多く用いる。織巾三幅を繋いだ大布の形式、模様がそれぞれ意味をもち、使い分けされることはいうまでもない。時には柩の上に掛けられ、柩の後に下げられ、あるいは精霊を呼ぶものとして用いられる。腰布、肩掛、頭帯なども喪に当たって、あるいは特定の儀式のときに、特定のものが用いられる。ティンギャンの布の多様性はその美しさとともに、布が人々の生活にとっていかに重要な役割を演ずるものであるかを証している。その多様性は、私たちの社会における染織品の多様性とは全く意味が異なるのであって、決して趣味的なものではなく生活の細部と必然的に関わっているのである。

 柳宗玄氏「フィリピンの染織」民藝7月号(1995年)より抜粋

伝統衣装の染織技法

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 ルソン島山間部に暮らす「イスナゴ族あるいはボントック族」の腰帯、タパクロスに色糸で縫取織のように緯糸を刺している。

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 ルソン島コルディレラ地方の山岳地帯に暮らす「カリンガ族(Kalinga)」木綿経縞織腰布カイン(kain)布の両端は片面緯紋織、布接ぎ合わせの継ぎ目のジグザグの多色刺繍が特徴

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 「ガッダン族(Ga'dang)」の男性用褌ディノンガス(dinonggas)幅14cm長さ2m半で織られた帯の両端はビーズの織り込みと一部刺繍の装飾、綾地紋の入った帯地は経縞織で布端には組紐状の模様かがり

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 ミンダナオ島西部のザンボアンガ半島に暮す「スバヌン族(Subanun)」の女性用の筒型衣装プラウ(pulau) アバカ繊維の経縞・経絣の織布を半分に切り離し、耳と耳をとじ合わせ織り幅の二倍の着丈にする

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ミンダナオ島南部に暮らす「マンダヤ族」女性用腰衣、木綿の経縞・経絣織布を織幅(71cm)のまま横縞で着用する。ティモール島のワニ紋様に類似している
 

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 スールー諸島、「タウスグ族(Tausug)」の手による、シルク綴織の帯布“カンディト(カンブト)”20世紀初頭のスールー王国の滅亡とともに、タウスグ族の宮廷貴族のための煌びやかな衣装は衰退して高度な職人仕事による“カンディト”は製作の伝統が途絶えた。

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 ルソン島北部コルディレラ地方「ボントック族(Bontok)」の藍染褌(長さ5m)の前垂れ部分、赤い毛糸の浮き織、その他の色糸も細く細く裂いた毛糸?

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 ルソン島北部コルディレラ地方山岳地帯に暮らす「ガッダン族(Ga'dang)」の縞木綿とビーズ装飾の男性用肩掛け”タペット(tapet)30cm幅で織られた木綿経縞地三枚が刺繍で接ぎ合わされ、布端はビーズで装飾された組紐角留めで仕立てられる

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 ルソン島北部の山岳地帯に暮す「ティンギャン族(Tinguian)」(イトゥネグ族)の腰布、織幅48cmの経縞布に半幅布(26cm)を連珠文の刺繍で繫いで仕立てる。青と赤の経縞糸に白の緯糸の畝織、ピナケルと呼ばれる布? 

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 ミンダナオ島南部マノボ族・クラマン族(Kulaman)の山袴、マボロット(mabolot)アバカ(abaca)=糸芭蕉布を縫い絞り赤の天然染料で染色、裾部分には経絣の別布を継ぎはぎ装飾した極めて手間隙のかかった衣装

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 ミンダナオ島マラナオ族の緯絣と縫取織が併用された”マロン・アンドン(malong a andon)150cmを超える長丈の筒型衣装。頭から被って”被衣”としたり、肩口まで被ったり、胸の高さまで覆ったり、腰部で折り返して腰衣としたり何通りもの使い方が出来る。モチーフはイスラムの影響

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 ミンダナオ島に暮らすマラナオ族の上質のマロン(Marong)、筒形衣装、横の二列の厚地シルク綴織はぐるりと全体を覆っている。やや幅の広い前立て部分もイスラム様式の幾何学文の綴織り

 

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